2013年の終わり、12月28日のスパイラルホールでやっと体験することができた。
会場のキャパは何人くらいだろう?ステージ上のピアノを360度かこむ形で客席が配置されていた。
客層はファッションやアート業界っぽい人びとと音大生っぽいようなギークっぽいような感じの20代が中心。
会場の照明が通常のピアノのコンサートではありえない程絞られた。だからといってクラブのような真っ暗闇にストロボを焚く、という演出でもない。
深海に潜り込んだような感じ。そう、これは特別なリサイタルなのだ。
開演の定刻から15分ほど過ぎたころ、渋谷さんが登場した。
演奏の合間に渋谷さんの解説が挟まる。マイクで解説しているのだけれど、彼がマイクを持って怒ったような早口の口調で語る様はまるで、プロレスのマイクパフォーマンスのようだと感じるのは私だけだろうか。
空調で譜面があおられるというハプニングを経て、コンサートは進んでいく。
研ぎ澄まされた鍵盤のタッチ、考え抜かれた音響、そして情熱をはらんだ演奏は大げさではなく、これまで経験したことのないものだった。
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今年は5月にArt Basel Hong Kongから帰国して翌日にBunkamuraでの初音ミクオペラに行った。
リサイタルで初音ミクオペラからの曲が何曲か演奏されると、あの頃にあったさまざまなことが思い出され、なんだか愛おしいような、なつかしい気持ちで胸が一杯になって泣けてきた。
この日の演奏でとくに印象に残ったのはブラームスの”intermezzo”。
それ程メジャーな曲ではないらしいのだけれど、たまたまこの秋~冬にかけて、Youtubeでグレン・グールドが演奏している同曲をよく聴いていた。
このver.↓
渋谷さんの解説ではサントリーホールでポゴレリッチというピアニストが演奏した(いつ頃のコンサートか失念)のに衝撃を受けたと言っていた。
ポゴレリッチの演奏ver.↓
たしかに、ポゴレリッチの淡い水彩画のような表現のほうが遥かにすてきのような気がする。
ところでこのイベントで印象的だったのは受付の人たちが親切だったこと。ああいうイベントってファッション系のPR会社が運営を担当することが結構あるみたいだけれど、彼らはそういう匂いのする人種だった。
お金を払って参加するイベントなのに、まるでVIP扱いされているような対応。うまく言葉では表現できないのだけれど、そういう体験だった。受付してもらっただけなのに。
間の取り方というかなんというか。自然なのだけれど尊重してくれている感じ。すてきな人たちだった。勢いのある人の周囲にはレベルの高いひとが集まるのだなと思った。
2013年5月に行われた初音ミクオペラ at Bunkamuraオーチャードホールのパンフ